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Xiang-ge-li-la! 第十二話 二重虹 |
今日の朝はいつもよりざわざわとしていた。 忙しさのピークも今日まで。最後の気合というヤツだろう。 そして今日はルンルンのバイト最終日でもある。学生の彼女は夏休みを利用して来ているので、一番早くに帰ってしまう。 出勤前に寮の前で集合写真を撮ろうと、昨日の夕飯の時に決めた。 朝の空気は澄んでいる。小雨が降っているせいかもしれない。ユッキーはカメラを折りたたみの三脚に取り付けると、位置を何度も確かめていた。 「うーん。この雨、止むかな?」 私は雨が気になって仕方がない。青空とまではいかなくていいから、せめて少し晴れて欲しい。 「空が明るいからすぐ止むわよ」 まどかサンが雨を手で避けながら空を見て言った。ちなっちゃんは寮の前に出してあったゴミ袋を邪魔にならないところに動かしている。 「ちなっちゃん、そのくらいで大丈夫だよ」 ファインダーを覗きながら、大きく左手を振ってユッキーが知らせた。 「あと誰が来てない?」 かおりんとすずちゃんとユウちゃんは、玄関の屋根のあるところで雨宿りをしている。その間を潜り抜けるようにしてルンルンが外に出てきた。 「一、二、三……と、三足して六。七、八」 ちなっちゃんがぐるりと見渡しながら数えた後、軽くため息をついた。 「あと一人。マイちゃんだね」 朝から鏡と真剣に打ち合わせをしていたのに、まだ終わらないみたいだ。かおりんが玄関から二階に聞こえる声で呼んだ。 「マイちゃーん、みんな集まったよー!」 「はぁーい」 情けなさそうな声で返事が聞こえて、マイちゃんが帽子を深く被って出てきた。 「上手くセット出来なかったよー」 両手で帽子を伸ばすように、さらに深く被ろうとするのをユッキーが止める。 「それ以上被ると顔が見えないよ」 「うー」 髪型を取るか、顔を取るか。マイちゃんにとっては難しい選択だ。両方取ろうと帽子を微調整するマイちゃんに、ちなっちゃんが笑いながら近づいた。 「見てごらん、リンリンはつなぎだよ」 「言わないでー」 いきなり話をふられた私は、頭を抱えてしゃがみこんだ。今日は夕方に臨時の休憩場所として使っていたビニールハウスを畳むので、赤いつなぎでの出勤だ。制服は畑仕事に変わった時に事務所に返してしまっていたから、私にはもともと選択肢はなかった。 「目立つ目立つ目立つー」 どうせ目立つなら私服にするべきだったと、思いっきり後悔している。 「はい、そこまで。こうなったら十分目立って頂きましょう」 無常にも言い切って、ユッキーは私を一番端に立たせた。 あれだけ気にしていた雨は、いつの間にか止んでいた。曇っているのはしかたないと、ユッキーがレンズを拭きながら呟く。 「今のうちに撮るよ。みんな並んで!」 前にかおりん、すずちゃん、ユウちゃんがしゃがむ。後ろに立つのはまどかサン、ちなっちゃん、マイちゃん、ルンルン、私。 タイマーをセットしたユッキーがユウちゃんの横に滑り込む。みんなで見守る中、赤いランプがぴかぴかと点滅している。あ、だんだん点滅が早くなった。 フラッシュが光ってカシャンという音がすると、あちらこちらで笑顔が解凍されていった。 「あぁー、目つぶったぁ」 「他の方向見ちゃったよ」 ざわざわとそれぞれの思いを口にする。 「もう一回とるよ」 そう言うとユッキーは列が崩れないうちに、着々と準備を始めた。空はさらに明るくなっていた。 「いくよー」 今度こそはと、それぞれがいい顔をつくる。もう一度、音が響いた。 「はい、終了ー」 手際のいいユッキーは撤収も早い。思ったより手早く終わったせいで、時間があまってしまった。 こんなに早く出勤してもしょうがない。そのまま何となく立ち話が続いていた。 「ルンルン、明日忙しい?」 私は明日が休みなので、ルンルンを誘ってどこかに行きたいなと思っていた。 「いいえ。帰りの切符は三日後しか取れなかったので、明日は暇です」 「じゃあ、どっか遊びに行かない?」 ルンルンの顔が途端に明るくなった。 「行きます。リンリンと遊びにいくのは初めてですね」 私も嬉しくなって笑いかけたその時、目の前で歓声が上がった。 かおりん達が何かを見ている。何があったのだろうと、みんなが集まってきた。 「あれ見て」 ユウちゃんが山の麓を指差した。何もない。それなら同じ方向に立とうと位置を変えた瞬間、それはゆっくり現れてきた。 「虹だ」 一度見えてしまえば、見失うことはない。七色あるかはよく分からなかったけれど、確かに虹が見えた。しかもそれはひとつではなかった。はっきりとした虹の少し上に薄い虹が平行して並んでいる。 「ふたつ重なっているよ!」 「初めて見た!」 「え、どこどこ?」 「ほら、薄いけど、ちゃんと虹だよ」 「うわぁ、すごい」 みんな興奮していた。虹だけでも珍しいのに、一度にふたつの虹が見られるなんて。そういえば、こんな風に大勢で空を見上げるのは二度目だ。 あの時は流星群だった。まだ、ユウちゃんが来る前で、まどかサンとかおりんとすずちゃんは留守番していた。全員で空を見上げるのは最初で最後になるだろう。 「今日のことは絶対忘れません」 虹を見たままで言うルンルンの声が、かすかに震えていた。 |
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