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  六月の花婿
 
 ジューン・ブライドと言えば『六月の花嫁』。
 六月に結婚式を挙げると幸せになれるという、海外の風習をむりやり取り入れた結婚式場の陰謀だ。
 彼女にどうしてもと言われてこの日にしたけれど、期待を裏切らない梅雨空。今日の降水確率は八十パーセントらしい。
 スピーチを頼んだ上司は今頃、何と言ってフォローしようか考えているだろう。
 俺は鏡の前の自分の姿にため息をつく。初夏の花婿は格好悪い。ただでさえ花嫁の添え物なのに、薄いブルーグレーのタキシードがさらに貧弱さを浮き彫りにさせる。
 そんな周囲の思惑など気にせずに、今日の主役は晴れ晴れとした顔で、白いドレスに身を包んでやってきた。長い話も、これ以上の幸せはないといった表情で聞いている。
 最後にお互いの親に花束を贈ることになっていた。うちの父と母。彼女のお母さんが、横一列に並ぶ。
 マイクを持った彼女がスポットライトの下、雨の中集まってくれた人たちに頭を下げた。
 いくらなんでも感動しすぎだと思うくらい、早々に涙声になっている。
 ――どうしても、この日にしたかったんです。五年前に他界した父の誕生日なので。
 お義父さん、お義母さん、孝之さん。わがままを聞いてくれて、ありがとうございます。
 何だ、このどっきりは。結婚式で花嫁が花婿を泣かしてどうするんだ。
 そういうことは先に言ってくれよと思いながら、外のどしゃ降りのような涙が止まらなかった。
 
                                               (了)
 
 
 
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